摩尔线程の資金調達ストーリー：初期投資家のリターンはすでに6200倍を超える

作者：王满华、陈美

1572倍のオフライン申込倍率、88日で科創板史上最速審査通過、年内最高値の「百元株」……次々と記録を塗り替え、「中国のNVIDIA」と称される摩尔线程（モアスレッド）が本日正式に科創板に上場した。

株価は、摩尔线程が上場直後に最高688元/株を付け、公募価格114.28元/株から502%の上昇となった。記事執筆時点で、同社の時価総額は2800億元。

摩尔线程の資金調達の軌跡を振り返ると、設立当初から資本市場の注目を集め、急速に一次市場の「共通認識」となった——2020年の設立からわずか3ヶ月で2回の資金調達を完了し、その後も毎年1回のペースで着実に進め、累計調達額は100億元超、IPO前の株主数は実に86社に上る。

最も早くから参画した投資家である沛県乾曜は、最新の2800億元時価総額で単純計算すると、当初投資した190万元が約118.98億元にまで増加し、驚異的な6262倍のリターンとなった。

もちろん、摩尔线程の資金調達ストーリーには、いくつかの「逃した機会」も伴っている。今年初め、投中網は、ある投資家が1日で1000万元を用意できず、摩尔线程の既存株への出資機会を逸したエピソードを伝えている。

初期の資金調達での激しい獲得競争から、上場直前の熾烈なシェア争奪まで、過去5年にわたる摩尔线程を巡る資本の綱引きは、中国半導体産業の急速な成長を証明するとともに、核心技術の突破において最も高いコストはお金ではなく、躊躇による「機会コスト」であることを改めて示した。

では、ハードテック投資ブームの中で、この企業はどのような特質を持ち、サイクルを超えて資本が手放したくないコアアセットとなったのか？一見「リスクある賭け」の裏に、どんな業界判断と価値観の堅持があるのか？

これらの疑問を持ちつつ、「国産GPU第一号株」がいかにして誕生したのかを振り返る。

「高いスタートラインでデビュー」

摩尔线程が誕生した2020年は、中国GPU分野が脚光を浴びていた。燧原科技や壁仞科技などの競合が次々と登場し、資本市場の半導体分野への熱狂もかつてない高まりを見せていた。

ライバルがひしめく中、「中国のNVIDIA」の看板を背負う摩尔线程は、「驚き」としか言いようのないスタートを切った——3ヶ月で2回の資金調達を完了し、設立100日未満で評価額10億ドル超を突破し、その年の「最速ユニコーン昇格」記録を更新した。

同社の最初の資金調達は2020年9月で、投資家は「沛県乾曜」と「深圳明皓」。

この投資について、同僚の杨博宇氏は、沛県乾曜の株主の一人である周启が老舗グラフィックカードメーカー七彩虹と深い関係があることを指摘している。七彩虹は2000年にNVIDIAと協業を開始し、2010年にはNVIDIAのコアAICパートナーとなった。

このラウンドでもう一つ重要なのは、深圳明皓の参入が沛県乾曜の仲介で実現したことだ。最初の外部投資家として、沛県乾曜は1元/登録資本という優遇価格を得た——プレマネバリュー1000万元で190万元を出資した。

今振り返ると、この190万元の「信任票」は大きなリターンをもたらした。目論見書によれば、上場前に沛県乾曜は摩尔线程の1699.87万株（発行前4.2494%）を保有し、記事執筆時点の2800億元時価総額で評価額は118.98億元、6262倍に増加した。

摩尔线程の最初の資金調達が「知人の引き立て」色が濃いものであったとしても、続くシードラウンドはまさにスター案件の王道ストーリーとなった。

2020年12月、摩尔线程はシードラウンドを完了し、投資家には五源資本、紅杉中国、闻名投資、和而泰などの大手が名を連ねた。投資家の一人は、契約時点で摩尔线程にはまだ「プロトタイプすらなかった」が、それでも大手が惹かれたのは完璧なチーム構成だったと語る。

創業者の张建中は、かつて黄仁勋の重要な「右腕」で、2006年からNVIDIAのグローバル副社長兼中国区総経理を務め、チームを率いて中国におけるGPUのエコシステムを構築し、「大中華区」をNVIDIAの世界最大のGPU市場に育て上げた、まさにGPU産業の変遷を見届けてきた人物だ。

その背後のチームもまた豪華絢爛——コアメンバーはNVIDIA、Microsoft、Intel、AMD、ARMなど世界トップのテック企業出身で、平均10年以上の経験を持つ。

「摩尔线程は世界トップクラスの最新GPUアーキテクチャ設計チームを擁している。」これは紅杉資本中国基金パートナー周逵氏の評価。雲岫資本のコメントはさらに率直だ。「摩尔线程は国内で数少ない、本当に世界レベルで、GPUの開発設計から市場販売、サポートまで全てをカバーできる成熟チームだ。」

つまり、トップチーム、トップ技術、そして絶妙なタイミングが、摩尔线程の高いスタートを実現した。

「チップさえ作れば、未来は無限大」

前回までの資金調達が布石となり、摩尔线程はその後2回の資金調達で、資本市場の熱気を一気に引き出した。

2021年2月、Pre-Aラウンドを完了。深創投、紅杉中国、紀源資本がリードし、招商局創投、字節跳動、小馬智行、陽光融匯資本、海松資本、闻名投資、第一創業、五源資本、和而泰、明浩などが参加。

同年11月には、上海国盛資本、五源資本、中銀国際系渤海中盛基金、建銀国際、前海母基金、招商証券、湖北高品質発展産業基金等からAラウンドで20億元を調達、十数社が「団体購入」する名シーンとなった。

陽光融匯資本は2021年初に摩尔线程のPre-Aラウンドに参加。2018年後半からAIチップ分野を継続追跡し、2020年国慶節後、設立3ヶ月の摩尔线程がレーダーに映った。

陽光融匯資本のテック担当責任者・郑焱氏（清華電子系出身）は、当時の摩尔线程の評価額は高かったが、プロジェクト接触から投資までわずか2ヶ月だったと語る。

「トップチーム」が迅速な投資判断の中心だった。彼によれば、創業者张建中は2006年4月から2020年9月までNVIDIAグローバル副社長兼中国区総経理を務め、「中国のGPUエコシステムと産業チェーンを一手に築いた」と言えるほど。また、チップ開発責任者・马凤翔の豊富なテープアウト経験、そして「最初のチップ実現の速度と確実性を最優先する」という実利的な方針もチームの技術判断と一致していた。当時は技術ロードマップへの疑念もあったが、スタートアップ大規模チップ企業にとっては、初号チップの迅速なブレークスルーとその後の高速イテレーションが最も重要と理解していた。

「初めて摩尔线程に接した時から、我々は明確な判断を持った。摩尔线程の業界トップクラスのGPUエコシステム、産業チェーン、販売力を信じていた。チップさえ作れば、未来は無限大だと。」と郑焱氏。

もちろん技術力だけでなく、張建中への社内の高い支持も彼を動かした。「摩尔线程のチームと接触する中で、全社員が会社ブランドや創業者本人に強い帰属意識と認同感を持っているのを感じた。非常に強い結束力で、みな全力投球だった。」

同じくPre-Aラウンドで参画した投資家・张远（仮名）は、投資過程で「LPが純利益の懸念から高い評価額に疑問を呈したが、チームが将来性への強い確信から価格は合理範囲内と説得し、迅速にクロージングした」という小エピソードを明かした。

市場もこうした果敢な投資家に報いた。摩尔线程に近い投資家によれば、Pre-AやAラウンドで期日までに資金を拠出しなかった機関は、同一ラウンドで評価額が引き上げられる事態となった。

その後、中国移動デジタル新経済産業基金と和諧健康保険がリードしたBラウンドでは、プレマネバリューは225億元まで高騰し、Pre-Aラウンドの37億元から大幅上昇となった。

4年前のこの投資を振り返り、郑焱氏は「会社の発展面でも、摩尔线程は当初の予想を上回り続けた」と語る。当初の計画では1年～1年半ごとに1つのチップを投入、4年で3つの製品を実現する予定だったが、実際は開発効率が大幅に向上。1つ目のチップは予定通り納品、2つ目・3つ目はさらに短期間で実現、「3年3チップ」という飛躍となった。

さらに嬉しいのは、プロダクトの実現度だ。2022年末、摩尔线程は秋の発表会で、業界初の国潮グラフィックカードMTT S80、メタコンピューティング一体型MCCX、GPUソフトウェアスタックとツール群を発表。「チップだけ晒してアプリを見せない」という業界の悪弊を打破した。その後、独自開発のグラフィックカードはJD.comで2999元で販売され、国内で数少ないBtoC実現のAIチップ企業となった——郑焱氏は、「一般ゲーマーや投資機関、競合、海外ユーザーまで摩尔线程のチップが手に入る。これはチームの技術への絶対的自信の表れだ」と語る。

投資後のフォローアップでは、摩尔线程の開発マイルストーン管理は「重要な工程の達成時期が1ヶ月を超えないほど精緻」だった。さらにAI機能の前倒し実現も驚きだった：当初計画では画像処理から開始し、後からAIを追加する予定だったが、実際にはAI機能が1世代前倒しで製品ラインに組み込まれ、市場の想像力をさらに広げた。

目論見書によれば、2023年には数億元の収益を実現し、商業化能力を証明した。2023年の収益は1.24億元、2022年の0.46億元から169%増加している。

「中国GPUに『最暗黒時代』はない」

摩尔线程の成長曲線を振り返ると、ドラマチックな転機に事欠かない。2023年は同社と投資家にとって重要な分岐点だった。

2023年10月17日、米国は摩尔线程をエンティティリストに加え、集積回路の演算密度・帯域幅密度への新たな規制も重なり、成長中の中国AIチップ企業に最大の試練が降りかかった。

「骨身に沁みた」。投資家Aはその日の心境をこう語る。「ちょうど徐州に出張中で、ニュースを聞いてホテルの庭で電話しまくった。実際、摩尔线程だけでなく、中国のIC産業全体が一時的なパニックに——ほぼ全てのAIチップ大手が同じ困難に直面。設計を変更しないと先端製造能力を得られず、一次市場の資金調達環境も一夜で凍結した。」

早期投資家として、Aの所属機関でも一瞬の迷いがあった。しかし経営陣との密なコミュニケーションで直ちに信念を固めた。A氏は「危機に直面しても、摩尔线程経営陣は守りに入らず、株主全員に『開発投資を強化し、次世代製品開発を全力推進』と明言した」と振り返る。

その後、张建中が出した社内メッセージはA氏の言葉を裏付けるものだった。张建中は「中国GPUに『最暗黒時代』などない。中国最高のフル機能GPUを作るのが摩尔线程の使命だ」と強調。同時に、「自主開発・イノベーション加速」「高品質製品の磨き上げ」「アプリケーション実装推進」「効率的なチーム作り」の4大ミッションを打ち出した。

この表明と行動は、強力な安心感を市場に与え、即座に資本による実質的なサポートにもつながった：社内メッセージ発出から10日以内に摩尔线程は数億元規模のB+ラウンド資金調達を完了。出資には中関村科学城、厚雪資本、中和資本、拓鋒投資、策源資本、恒基浦業などが参加した。

この産業極限のプレッシャー下での資金調達について、多くの投資家は「極めて貴重」と語る。このラウンドは市場に確かな自信をもたらし、摩尔线程に注目する株主たちもひとまず安堵した。

一方で、摩尔线程はこの厳しい戦いに、着実な業績成長で自らのレジリエンスを示した。2024年には収益が4.38億元に拡大し、2023年比252%増。収益曲線は右肩上がりを続けている。さらに2025年上半期の営業収益は約7.02億元で、過去3年の合計を上回った。

IPO前の「熱狂」と既存株の争奪戦

多くの初期投資家は、摩尔线程の評価額が「高騰」→「調整」→「暴騰」と推移するサイクルを自身で体験している。最近最も熱狂を感じたのは2024年下半期だった。

2024年11月初、摩尔线程は中信証券と上場指導契約を締結し、正式にIPOプロセスを開始。ニュースが出ると、株を保有する上場企業・和而泰の株価は数取引日でほぼ倍増。「稼げる」効果が初めてこれほど直感的に世間に示された。

外部環境も大きく変化。国家によるイノベーション政策の強化とAI産業の爆発的成長で、寒武紀などチップ企業が二次市場で高騰。市場全体が新たな視点で摩尔线程を評価し直し、「中国版NVIDIA」としての価値が再認識・再評価された。

一次市場の熱狂は年末のPre-IPOラウンドで頂点に。投中嘉川CVSourceによれば、このラウンドでは38社の投資機関が参加し、合計52.25億元を増資、プレマネバリューは246.2億元。

この数字以上に衝撃的だったのは、各方面がシェア獲得のため知恵を絞り、激しい競争となったこと。聞いた話では、既存株の譲渡を直訴する競合や、LPが「次期ファンド投資」を条件に入場権を得ようとする例、家族経由で連絡を取る人までいて、「一票難得」の様相だった。

2025年初、摩尔线程は高粱資本、明德博雅、善達投資などから戦略的資金調達を発表。

前述の投資家・张远は、同社もこの時期に追加投資を望んだが、初期株主でも一切のシェアが得られなかったという。やむなく別の競合企業に投資し、そちらも最近IPO計画を発表した。

市場にはさらに多くの「逃した後悔」が流れている。投資家Bは、チャット記録を見せてくれた。昨年11月、摩尔线程のIPOニュースが流れた直後、友人から「今なら240億元評価で『乗れる』」と声をかけられたが、「IPOの不確実性が高い」と断ったという。

その後の展開は周知の通り、摩尔线程は88日という異例のスピードで審査通過、発行時価総額約537億元で今年の科創板最大IPO記録を樹立。かつて躊躇し、逃し、諦めた投資家たちは今、この数字を見つめながら本来得られたかもしれないリターンを心の中で計算するしかない。

2020年に彗星のごとく現れ、デビュー即ピーク、業界が「ブラックスワン」に見舞われ調整を経て、いまや科創板上場を果たした摩尔线程の5年間は、まさに波乱万丈のハードコアな突破の道のりだった。

11月21日、IPOロードショーの場で、創業者张建中は改めて初心を語った。「技術の蓄積や製品性能では、NVIDIAやAMDなどの国際大手に依然遅れがあり、特に大規模GPUクラスター構築やエコシステムの成熟度では明確な差がある。しかし我々の製品の一部指標はすでに国際最先端水準に近づき、コア部分での『ボトルネック打破』を実現した。」

例えば、MTTS80グラフィックカードの単精度浮動小数点性能はNVIDIA RTX3060に近く、MTTS5000による千枚規模のAI計算クラスター効率は同規模の海外同世代製品を上回るとした。

张建中はまた、外部規制政策と国家データセキュリティ需要の両輪で、中国GPU市場の国産化が加速し、国内GPU企業が知財技術の壁を次々突破していると指摘した。

フロスト＆サリバンの予測を踏まえると、今後中国GPU市場の国産化率は大きく上昇し、輸入品の代替が進む。現在のAI演算能力需要の爆発は、国産GPUにこれまでにない発展の窓を開いたことは間違いない。