ヨーロッパのトップ10銀行が突然連携して動き出しました。BNPパリバやオランダのINGなどの老舗金融機関が手を組み、Qivalisプラットフォームを設立し、2026年に規制準拠のユーロステーブルコインをリリースする計画です。一見すると新商品の発表ですが、実際にはドル建てステーブルコインの覇権に対する主権防衛戦です。

**なぜ伝統的な銀行は今になって焦っているのか？**

端的に言えば、追い詰められたからです。欧州中央銀行は以前から、ドル建てステーブルコインが欧州で蔓延すればユーロ圏が「デジタルドル化」の植民地になり、通貨主権と金融データのコントロール権が奪われると警告してきました。さらに痛いのは、ここ数年、欧州の銀行がイノベーションや時価総額で米国の同行に大きく後れを取っていることです。Qivalisプロジェクトは攻撃というよりも、伝統的な金融システムが決済インフラやデータ主導権を取り戻すためにやむなく築いた防衛線と言えます。

**USDTは本当に慌てるのか？**

短期的には全く慌てません。USDTは先行者利益によるネットワーク効果が非常に強く、ステーブルコインの時価総額の約99%を占め、世界中のトレーダーはその高い流動性の取引ペアに慣れています。みんなに突然プラットフォームを切り替えろと言うのは、北京の人々にAlipayをやめて他の決済ツールに切り替えさせるようなもので、その難しさは想像に難くありません。

しかし、今後3〜5年を見据えると、Qivalisが突いたのはUSDTの弱点、すなわち**規制遵守性と主権の後ろ盾**です。EUはMiCAという切り札を持っており、自国内では規制準拠のユーロステーブルコインに青信号を出し、非準拠製品には様々な目に見えないハードルを設けることができます。政策が市場を動かす、この手法は伝統的な金融分野では何度も成果を上げてきました。

**テーブルのルールが書き換えられている**

Qivalis参入の最大の意義は、USDTを打ち負かせるかどうかではなく、ゲームのルールが転換しつつあるという点です。すなわち、暗号資産の「野蛮な成長」から、伝統金融の「ライセンス取得・規制準拠」路線への切り替えです。規制当局、中央銀行、老舗銀行といった体制側の力が、「合法的なステーブルコイン」とは何かを再定義しようとしています。テーブルのルールの変化を見抜くことは、特定のコインの値動きを当てることよりも、はるかに重要です。